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再生医療で「組織」を作る新しい方法:細胞シート技術とは?

Tags: 再生医療, 細胞シート, 組織工学, 細胞培養, 組織再生

再生医療で「組織」を作る新しい方法:細胞シート技術とは?

再生医療は、病気や怪我で失われた体の機能を取り戻すことを目指す医療です。私たちの体は様々な種類の細胞が集まって組織を作り、さらに組織が集まって臓器を形成しています。再生医療では、これらの細胞や組織、臓器を修復または再生させることを目標としています。

一口に「再生医療」といっても、様々なアプローチがあります。細胞そのものを移植する方法や、特定の物質を使って体の自己治癒力を高める方法などです。その中でも、近年注目されているユニークな技術の一つに「細胞シート」があります。

この記事では、再生医療における「細胞シート」技術について、その基本的な仕組みから、どのように作られるのか、どのようなメリットがあるのか、そしてどのような病気への応用が期待されているのかを分かりやすく解説します。

細胞シートとは何ですか?

細胞シートは、その名の通り、細胞が平らなシート状に集まってできた構造体です。私たちの皮膚のように、細胞が規則正しく並んで薄い膜のような状態になっています。

従来の再生医療では、細胞を一つ一つバラバラの状態で、注射器などで患部に注入するといった方法が考えられてきました。しかし、この方法では注入された細胞が定着しにくかったり、広がってしまったりすることが課題となる場合がありました。

一方、細胞シートは、細胞同士がしっかりと結合した「組織に近い形」で移植することができます。これにより、移植した細胞がばらけずに患部に留まりやすく、効率的に機能することが期待できます。例えるなら、バラバラのレンガを積むのではなく、あらかじめシート状に並べられたレンガの壁を運んでくるようなイメージです。

細胞シートはどのように作られるのですか?

細胞シートを作るためには、特殊な性質を持つ培養皿が使われます。一般的な細胞培養皿は、細胞がくっつきやすいように表面処理がされています。しかし、細胞シートを作るためには、細胞を培養した後に、シート状のまま剥がす必要があります。

ここで登場するのが、「温度応答性培養皿」です。この培養皿の表面には、温度によって性質が変化する特殊な高分子(ポリマー)が塗られています。

  1. まず、体から採取した細胞(または幹細胞から分化させた細胞)をこの温度応答性培養皿の上で培養します。細胞は培養皿の表面に接着し、増殖してシート状に広がっていきます。
  2. 細胞が十分に増殖し、シート状になったら、培養皿の温度を通常より少し低くします(例えば37℃から20℃程度に下げます)。
  3. すると、培養皿表面の特殊なポリマーの性質が変化し、細胞との接着力が弱まります。
  4. 細胞シートは培養皿から自然に剥がれ、シート状のまま回収することができます。

この方法の素晴らしい点は、細胞同士の結合(細胞間接着)を壊すことなく、培養皿から優しく剥がせることです。これにより、細胞が生きたまま、機能も保った状態でシートとして回収できるのです。

細胞シート技術のメリットは何ですか?

細胞シート技術には、従来の細胞移植にはないいくつかのメリットがあります。

どのような病気への応用が期待されていますか?

細胞シート技術は、様々な疾患への応用が研究されており、すでに一部は臨床応用もされています。

これらの例の他にも、様々な組織や臓器の再生に向けて、細胞シート技術の研究開発が進められています。

細胞シート技術の今後の課題

細胞シート技術は有望な方法ですが、実用化やさらなる普及に向けていくつかの課題も存在します。

まとめ

細胞シート技術は、細胞を組織に近いシート状の構造として移植する、再生医療の新しいアプローチです。温度応答性培養皿を使うことで、細胞を生きたまま、細胞間接着を保った状態で剥がすことができ、効率的な細胞移植や組織再生が期待されています。

角膜や心臓、食道など、様々な疾患への応用が研究・実施されており、私たちの健康寿命を延ばす可能性を秘めています。血管新生や製造の効率化といった課題はありますが、今後の研究開発によって、さらに多くの病気に対して有効な治療法となることが期待されています。

再生医療の分野は日々進化しています。細胞シート技術もその一つとして、今後の発展に注目が集まっています。