わかる!再生医療入門

細胞を使う再生医療と遺伝子を使う遺伝子治療:その違いを解説

Tags: 再生医療, 遺伝子治療, 細胞, 遺伝子, 先進医療

再生医療と遺伝子治療は、どちらも現代医療が進めている革新的な技術として注目されています。病気や怪我を治す、あるいは体の機能を回復させるという大きな目標は共通していますが、その方法論には明確な違いがあります。

この記事では、再生医療と遺伝子治療がそれぞれどのような技術なのか、そして両者の違いはどこにあるのかを分かりやすく解説します。

再生医療とは何か? 簡単におさらい

再生医療とは、病気や怪我、あるいは老化によって失われたり傷ついたりした体の組織や臓器の機能を、細胞などを用いて修復したり、再び作り出したりすることを目指す医療分野です。

私たちの体は、たくさんの「細胞」が集まってできています。細胞が集まって組織になり、組織が集まって臓器になります。再生医療は、これらの細胞や組織が本来持っている「自分で自分を修復する力」や「新しい細胞を生み出す力」を引き出したり、体の外で増やした細胞を移植したりすることで、体の機能を回復させようとします。

例えば、iPS細胞のような幹細胞を使って、失われた心筋細胞や神経細胞を作り出し、病気の患者さんに移植するといった研究や治療が進められています。

遺伝子治療とは何か?

一方、遺伝子治療は、病気の原因となっている特定の「遺伝子」に直接アプローチする医療技術です。

私たちの体の設計図ともいえる遺伝子は、細胞の働きを決めたり、タンパク質を作るための情報を持っていたりします。もしこの遺伝子に異常があると、正しいタンパク質が作られなかったり、細胞が正常に機能しなくなったりして、様々な病気の原因となります。

遺伝子治療では、病気の原因となっている異常な遺伝子を修正したり、足りない正常な遺伝子を補ったり、あるいは特定の細胞(例えばがん細胞)の働きを抑えるための遺伝子を導入したりします。この遺伝子を細胞に届けるためには、「ベクター」と呼ばれる運び屋(多くの場合、安全なウイルスが利用されます)が使われます。

例えば、生まれつき特定の酵素を作る遺伝子に異常があるために起こる病気に対し、その酵素を作る正常な遺伝子を体内に導入して、病気の症状を改善するといった治療が行われています。

再生医療と遺伝子治療の主な違い

ここまで、再生医療と遺伝子治療の基本的な考え方を見てきました。改めて、両者の主な違いを整理してみましょう。

| 項目 | 再生医療 | 遺伝子治療 | | :------------- | :--------------------------------------- | :----------------------------------------- | | アプローチの核 | 細胞(幹細胞、体細胞など)を使用する | 遺伝子に直接アプローチする | | 主な目的 | 失われた組織や臓器の機能を回復・再生 | 遺伝子の異常を修正・補完し、病気の原因を取り除く | | 対象とする問題 | 組織や臓器の損傷、機能不全 | 遺伝子の異常によって引き起こされる病気 | | 技術のイメージ | 失われた部品を補充・修復する「建築・補修」 | 設計図(遺伝子)を書き換える「プログラム修正」 |

このように、再生医療は「細胞」という材料を使って失われた「構造物(組織や臓器)」を修復・再生することに主眼を置いています。例えるなら、壊れた建物を新しい材料で建て直したり、補強したりするイメージです。

それに対して遺伝子治療は、「遺伝子」という情報(設計図やプログラム)に働きかけ、体の働きそのものを改善したり、病気の原因を根本から治したりすることを目指します。例えるなら、建物の設計図や、機械を動かすプログラムの誤りを修正するイメージです。

どちらの技術も未来の医療へ貢献

再生医療も遺伝子治療も、それぞれ異なるアプローチで、これまで治療が難しかった病気や怪我に対する新たな道を開く可能性を秘めています。

また、研究開発が進むにつれて、これらの技術が組み合わされて使われるケースも出てきています。例えば、遺伝子を操作して機能を高めた細胞を再生医療に応用するなど、お互いの強みを活かすことで、より効果的な治療法の開発が期待されています。

再生医療と遺伝子治療は、異なる技術ではありますが、どちらも私たちの健康寿命を延ばし、より豊かな生活を送るために不可欠な、未来の医療を担う重要な柱と言えるでしょう。それぞれの技術の進歩に注目していくことが大切です。