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再生医療で使う細胞、その「もと」は? 細胞ソースの種類を解説

Tags: 再生医療, 細胞ソース, 幹細胞, 体性幹細胞, ES細胞, iPS細胞

再生医療は、私たちの体が本来持っている「治す力」を引き出し、失われた機能や組織を回復させることを目指す医療です。この技術の中心には「細胞」の存在があります。

病気や怪我で傷ついた体の部分に、特定の能力を持つ細胞を移植したり、体内の細胞の働きを活性化したりすることで治療を行います。では、この「再生医療で使う細胞」は一体どこから来るのでしょうか?

この記事では、再生医療の材料となる細胞の「もと」、つまり「細胞ソース」について、その主な種類とそれぞれの特徴を分かりやすく解説します。

再生医療で使う細胞はどこから来る?

再生医療に使われる細胞は、大きく分けていくつかの種類があります。これらの細胞は、私たちの体の中や、特別な方法で作られたものなど、様々な場所から得られます。細胞ソースを選ぶ際には、治療したい病気の種類、必要な細胞の性質、安全性、倫理的な側面など、様々な要素が考慮されます。

主な細胞ソースとしては、以下のものが挙げられます。

これらの細胞ソースについて、それぞれ詳しく見ていきましょう。

体性幹細胞:私たちの体の中にある幹細胞

体性幹細胞は、文字通り私たちの「体(体性)」の中に存在する幹細胞です。大人になった私たちの体内にも、骨髄、脂肪、皮膚、血液など、様々な場所に存在しています。

体性幹細胞の特徴は、特定の種類の細胞や組織になる能力を持っていることです。例えば、骨髄にある体性幹細胞からは、血液の細胞や骨、軟骨などの細胞が作られることが知られています。このような、限られた種類の細胞に分かれる能力を「多分化能(たぶんかのう)」と呼びます。

体性幹細胞を再生医療に使う最大のメリットの一つは、患者さん自身の体から採取できる場合があることです。自分の細胞を使うことができれば、移植した際に拒絶反応(体が異物とみなして攻撃してしまう反応)が起こるリスクを減らすことができます。

ただし、体性幹細胞は体の場所によって得られる量が限られていたり、体外で増殖させるのが難しかったり、分化できる細胞の種類が限られていたりするという側面もあります。代表的な体性幹細胞には、間葉系幹細胞(脂肪や骨髄から採取)や造血幹細胞(骨髄や臍帯血から採取)などがあります。

ES細胞(胚性幹細胞):受精卵から生まれる万能細胞

ES細胞は「Embryonic Stem Cell」の略で、「胚性幹細胞」と呼ばれます。これは、受精卵がごく初期の段階である「胚(はい)」から作られる幹細胞です。

ES細胞の最大の特徴は、体のあらゆる種類の細胞(神経、心筋、血液、皮膚など)に分化する能力を持っていることです。このような、全ての細胞になる可能性を持つ能力を「多能性(たのうせい)」と呼びます。また、体外でも非常に効率よく増やすことができます。

ES細胞は理論上、体のどんな組織でも作り出すことができる可能性があるため、再生医療において非常に注目されました。しかし、ヒトの受精卵を利用することから、倫理的な問題について慎重な議論が必要です。また、移植した際に拒絶反応が起こりやすいという課題もあります。

iPS細胞(人工多能性幹細胞):体細胞から作る万能細胞

iPS細胞は「induced Pluripotent Stem Cell」の略で、「人工多能性幹細胞」と呼ばれます。これは、日本の山中伸弥教授らの研究グループによって開発された、比較的新しい細胞ソースです。

iPS細胞は、皮膚の細胞や血液の細胞など、すでに分化して特定の働きを持っている「体細胞」に、特定の遺伝子(「因子」と呼ばれます)を導入することで人工的に作られます。驚くべきことに、このように操作された体細胞は、まるで時計の針を巻き戻したかのように、ES細胞と同じような「多能性」を持つ幹細胞に変化するのです。

iPS細胞の利点は、ES細胞が持つ多能性や増殖能力を持ちながら、倫理的な課題が大きい受精卵を使わないで作製できる点です。また、患者さん自身の体細胞からiPS細胞を作り、そこから必要な細胞を分化させて移植すれば、拒絶反応のリスクを大幅に減らせると期待されています。

一方で、iPS細胞を作るプロセスには、安全性に関する課題(例えば、細胞が無制限に増殖してしまう腫瘍化のリスクなど)や、作製にコストや時間がかかるという課題もあります。これらの課題を克服するための研究が進められています。

まとめ:多様な細胞ソースが広げる再生医療の可能性

ここまで、再生医療で主に使われる3つの細胞ソース、体性幹細胞、ES細胞、iPS細胞について解説しました。

これらの細胞ソースは、それぞれ異なる特性を持っています。再生医療の研究開発においては、治療対象となる病気や、修復したい組織の性質に応じて、最適な細胞ソースの選択、あるいは複数の細胞ソースの組み合わせが検討されています。

細胞ソースの研究は今も活発に行われており、新しい種類の幹細胞が見つかったり、細胞をより安全かつ効率的に作る技術が開発されたりしています。多様な細胞ソースの研究開発が進むことで、再生医療が適用できる病気がさらに増え、より多くの人々が恩恵を受けられる未来が期待されています。