わかる!再生医療入門

ティッシュエンジニアリングとは? 再生医療を支える組織づくりの技術

Tags: ティッシュエンジニアリング, 再生医療, 組織工学, 細胞, バイオマテリアル

再生医療は、病気や怪我によって失われた組織や臓器の機能を回復させることを目指す医療です。この再生医療を実現するための鍵となる技術の一つに、「ティッシュエンジニアリング」があります。

まだ再生医療の基礎を学び始めたばかりの皆さんの中には、「ティッシュエンジニアリング」という言葉を初めて耳にする方もいらっしゃるかもしれません。ここでは、ティッシュエンジニアリングとはどのような技術なのかを分かりやすく解説します。

ティッシュエンジニアリングの考え方

ティッシュエンジニアリング(Tissue Engineering)は、日本語では「組織工学」とも訳されます。これは、私たちの体にある細胞や、人工的な材料、そして生物学的な因子などを組み合わせて、人工的に組織や臓器を作り出し、傷ついた体の部分を修復したり、置き換えたりする技術です。

例えるなら、建物を建てる際に、レンガや木材(材料)、職人さん(細胞)、設計図や指示(生物学的な因子)を組み合わせて構造物を作るのと似ています。ティッシュエンジニアリングでは、これらの要素を使い、体の中で機能する「生きた」組織を作り出すことを目指します。

ティッシュエンジニアリングに必要な3つの要素

ティッシュエンジニアリングで機能的な組織を作り出すためには、主に以下の3つの要素が必要とされています。

  1. 細胞(Cells)

    • 組織の主役となるのが細胞です。作りたい組織の種類に応じた細胞を用意します。例えば、骨を作りたければ骨の細胞、皮膚を作りたければ皮膚の細胞が必要です。
    • これらの細胞は、患者さん自身の体から採取したり、iPS細胞やES細胞などの幹細胞を目的の細胞に変化(分化)させて準備したりします。
    • 細胞は、組織として機能するために、数を増やしたり、特定の働きをするように育てたりする必要があります。
  2. 足場(Scaffold)

    • 細胞が組織として成長し、立体的な形を保つためには、「足場」と呼ばれる構造体が必要です。これは、細胞が増殖したり、互いに結合したりするための基盤となります。
    • 足場は、多くの場合、生体内で安全に使用できる、体の中で分解される性質を持つ材料(生体分解性ポリマーなど)で作られます。
    • 足場は、作りたい組織の形や硬さに応じて、さまざまな素材や構造で作られます。建物の骨組みや、細胞が暮らす家の壁のような役割を担います。
  3. 生理活性因子(Signaling Molecules/Growth Factors)

    • 細胞が足場の上で正しく成長し、目的の組織へと変化していくためには、細胞に「指示」を与える物質が必要です。これが生理活性因子、特に成長因子と呼ばれるタンパク質などです。
    • これらの因子は、細胞の増殖を促したり、特定の細胞に分化するように誘導したり、血管を作るように促したりするなど、細胞の様々な活動をコントロールします。
    • 例えるなら、細胞に「こう育ちなさい」「ここで止まりなさい」といった指示を出す信号のようなものです。

組織ができあがるまでの簡単な流れ

これらの3つの要素を使って組織を作り出すプロセスは、一般的に以下のような流れで行われます。

  1. 作りたい組織に適した細胞を採取または準備します。
  2. 細胞が増殖・分化するための足場を用意します。
  3. 足場の上に細胞を播き、生理活性因子などを加えた特別な培養液の中で育てます。
  4. 適切な環境で培養を続けると、細胞は足場の上で増殖し、互いに協力しながら組織を形成していきます。
  5. 十分な大きさや機能を持つ組織ができあがったら、それを患者さんの体の傷ついた部分に移植します。

移植された組織は、時間とともに患者さん自身の体になじみ、機能を回復させていくことが期待されます。足場は、多くの場合は体の中で自然に分解・吸収されていきます。

ティッシュエンジニアリングの応用例

ティッシュエンジニアリングの研究は、様々な組織や臓器の再生を目指して進められています。例えば、

これらの他にも、心臓、肝臓、神経、角膜など、様々な組織や臓器の再生に応用する研究が行われています。

まとめ

ティッシュエンジニアリングは、細胞、足場、生理活性因子の3つを組み合わせ、人工的に機能的な組織を作り出す再生医療の重要な技術です。この技術によって、これまで治療が難しかった病気や怪我に対して、新しい治療法が生まれることが期待されています。

まだ研究段階のものが多く、実用化や普及には様々な課題がありますが、ティッシュエンジニアリングは、将来の医療を変える可能性を秘めた、非常に有望な分野と言えるでしょう。

再生医療に興味を持たれた方は、ぜひ、このティッシュエンジニアリングについてもさらに詳しく調べてみてください。